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ファシアとハイドロ その②

『fascia(ファシア)』の異常とは   

fascia(ファシア)の一部に機能障害が起きると、離れた部位の機能に影響を及ぼすこともあります。

機能障害の原因としては、不動(disuse)や過負荷(オーバーユースoveruse)が契機となることが多いと考えられています。例えば、パソコンをはじめとしたデスクワークなど同一姿勢を保持する作業や、外傷に対する炎症反応による瘢痕の形成などです。

これらの原因にて、fascia(ファシア)が癒着してしまい、結果として様々な症状が起きる可能性ができてしまいます。             

神経周囲もfascia(ファシア)

神経の周囲もfascia(ファシア)に含まれることは、病態を考える意味でも治療を考える意味でも重要です。

神経は【神経=神経線維+結合組織(神経鞘、神経上膜など含む)】であり、解剖学的にその周囲組織(筋外膜や血管)は連続していることは、マクロ解剖(肉眼レベル)・ミクロ解剖(顕微鏡レベル)の両方の立場から指摘されています。

いいかえると、それぞれの境界を客観的に同定することはきわめて困難であるということで、靭帯・腱・関節包なども同様です。例えば、筋の付着部と関節包を構成する線維群は解剖学的に連続していることが指摘されています。

また、fascia(ファシア)と自由神経終末(いわゆる神経末端:すべての侵害刺激に応じるポリモーダル受容器が存在し、皮膚だけでなく筋など含めて全身の各部位に分布)や毛細血管の関係性も解明されていません。          

『癒着』とは       

「癒着」自体も誤解されやすい言葉ですが、本来は接着強度の概念は含みません。「癒着」といえば、神経や腱や靭帯の癒着剥離という整形外科手術の術式は古くからにあるように、強固な線維性構造を鋭的に剥離しなければならない強度のイメージがあります。しかし、本来の定義では強度の概念は含んでいません。

・Adhesion=異種組織間・臓器間の接着

・Cohesion=同種組織間接着(fascia(ファシア)同士の癒着はこっち)           

『fascia(ファシア)』が『癒着』すると…        

fascia(ファシア)が癒着すると、様々な症状が起きる可能性ができてしまいます。

病態的には、「炎症や血流増減、異常血管(毛細血管)」、「疼痛物質の局所濃度増加」、「末梢神経(自由神経終末を含む)の過敏性」、「phの低下」などが考えられており、結果的に疼痛閾値の低下による痛覚過敏が生じます。

機能的には、組織の伸張性の低下、組織間の滑走性の低下が生じてしまいます。結果的に可動域の制限や痛みやしびれが生じます。例えば、神経線維周囲に生じたfascia(ファシア)の癒着(Adhesion/Cohesion)神経の伸縮・滑走を障害して末梢神経障害の原因となりえます。

過敏化した侵害受容器にて、トリガーポイントと呼ばれる痛みを誘発するポイント(発痛源)ができることもあります。そして、トリガーポイントは筋膜上だけでなく、腱・靭帯・脂肪・皮膚などに広く存在します。

日常生活でも酷使する部位でもあるため、代償性に(かばって)他の部位にも負担がかかり、さらにその部分にも痛みが出ることもあります。

また、神経は筋肉と筋肉の間(つまりfascia(ファシア))を走行し、筋膜を貫いて走行しているため、その支配領域の神経症状(しびれ感やピリピリ感など)を起こすこともあります。

神経線維はあくまで電気信号を伝える電線のようなものなので、異常シグナルは神経線維周囲のfascia(ファシア)の癒着から生じると考えられます。異常シグナルがその部位に自由神経終末(侵害受容器)から入力されたうえで、脳に伝達されると考えられます。

末梢神経自体とその周辺の結合組織(fascia)の知覚を司る神経(nervi nervorum)や末梢神経を栄養する血管(vasa nervorum)もまた、末梢神経に起因した痛みに関与している可能性もあり、これらにも、線維性組織としてのfasciaと末梢神経との機能的な役剖が隠されていると考えられます。さらに動脈本幹から枝分かれした細い動脈周囲をとりまく交感神経線維も、痛みに関わることがわかってきています。逆にいえば、周囲のfasciaの異常をハイドロリリースなどで解除できれば、痛みが改善する可能性もあります。

神経や血管周囲は、けしてシームレスな組織ではありません。「末梢神経」の神経障窖性疼痛を具体例に挙げると、末梢神経=神経線維(nerve fibers) + 線維性組織(a fascia/fibrils) ともいえます。

例えば、臀部深層において大殿筋と股関節周囲の筋(梨状筋、内閉鎖筋、大腿方形筋など)の間を走行する神経周囲や血管周囲のfascia(ファシア)に癒着が生じれば、その信号が上殿神経や下殿神経や後大腿皮神経や坐骨神経を経て、脳に伝達されるというわけです。

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