新型コロナウイルス感染症対策についてはこちら

ファシアとハイドロ その③

異常なfascia(ファシア)による症状

神経線維の断線(神経線維の切断や、強い狭窄による神経線維の圧迫による神経伝導障害)がおこれば、神経機能の低下(感覚神経:鈍麻、運動神経:麻痺など)をきたすことが必発であり、この症状は、日内変動などの症状の変動がなく、一定の強さ(程度)であることが特徴です。

一方、「痛み」や「異常感覚や知覚過敏(ピリピリやビリビリといったしびれ感)」という神経興奮症状は、上のような神経線維の近傍の異常なfascia(ファシア)のシグナルを神経線維が伝えていると考えられます。異常なfascia(ファシア)では,組織の仲張性低下と組織同士の滑走性の低下、また水分量の低下が起こっていると考えられている。fasciaハイドロリリースは、異常なfasciaを生理食塩水などの薬液でリリースし、鎮痛効果に加えてfasciaの柔軟性の改善をし、症状の改善を期待する手技です。

明らかな侵害受容性疼痛(組織損傷がある場合や、それに準ずる急性期に生じる痛み)に対しては、fasciaハイドロリリースでは鎮痛をすることができないため、異常なfasciaや損傷組織の神経末端に局所麻酢薬(Naチャネル遮断薬)を使用して神経伝達を抑制する必要があります(いわゆる神経ブロックやトリガーポイント注射)。

一般的にいわれている坐骨神経痛の多くは、真の意味での神経障害ではなく、fascia(ファシア)の異常としてハイドロリリースの治療対象です。つまり、坐骨神経痛ではなく、坐骨神経痛「様」の下肢症状といえることができます。ヘルニアなど脊椎部分での圧迫・狭窄があってもなくても、もっと末梢でのfascia(ファシア)部分の癒着にて神経症状を起こすこともあるのです。詳細なエコー観察下で、末梢神経周囲および末梢神経を構成する結合組織のFascia (神経鞘などの極近傍から、数cm以上離れた部位も含む)を正確にリリースすることにより治療ができるという知見は重要です。

これらを含めて関連痛(痛みだけでなく、しびれ感も)と考えることができますね。関連痛の症状が強いと、もとの部位(発痛源)の症状がマスクされてしまうこともあります。つまり、痛み・しびれの部位と、その原因の部分が離れていることもあり得ます。

また、話を複雑にさせているのは、必ずしも障害部位は1か所とは限らないことです。経過が長いと連鎖反応のように複数箇所にFascia(ファシア)の癒着が生じていること(飛び石状に点在している場合)もあり得ます(double crush、triple crushといった言い方をするようです)。その場合は、それぞれの責任割合のようなものを考えなくてはなりませんね。(経験上、それら障害部位をマークしていくと、いくつかのラインが引けることが多いと実感しています。)  例えば、脊椎部分でのヘルニアや狭窄が高度の場合(硬膜周囲の癒着が強い場合、神経の絞扼による麻痺症状が生じている場合)は話がさらに複雑になっていきます。つまり、硬膜部分の異常の責任割合が大きい場合は、手術が必要と考えられます(いいかえると、手術をしてよくなる場合)。ヘルニアや狭窄があっても、その責任割合が小さい場合(末梢のfascia(ファシア)の異常がメインである場合)は手術の必要性は低いと考えられます(いいかえると、手術してもよくならない場合)。

≪参考≫ 日本整形内科学研究会 https://www.jnos.or.jp/

関連記事