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MPSとトリガー②

トリガーポイントとは

トリガーポイントとは、最新の定義では、生理的に「過敏化した侵害受容器」といわれています。正常な組織を損傷するか、損傷する恐れのある刺激(=侵害刺激)に反応する受容器が、過敏になった状態のことです。トリガーポイントは、関連痛や知覚過敏(しびれ)・違和感といった症状のほかに、感覚鈍麻・発汗・めまいなどの自律神経症状を引き起こすこともあります。このトリガーポイントによる痛みやその他の症状を引き起こす症候群を、筋膜性疼痛症候群(MPS)と呼びます。日本ではまだ筋膜性疼痛症候群という病気自体はあまり知られておらず、「筋痛症」とも呼ばれることがあります。

ここで注意しておきたいのは、MPSとはトリガーポイントなどからの痛みを捉えた脳や脊髄が、反射により交感神経を働かせ、トリガーポイントおよび周辺の筋肉に血管収縮・酸素欠乏が発生して悪循環が生じ,疼痛が広がることが病態とされています。線維筋痛症と混同してはいけません。MPSは主に末梢性の病変を示唆する疾患ですが、線維筋痛症は「中枢神経系の異常が関与する状態」のことです。

トリガーポイントの好発(よく発生する)部位は、筋肉が骨に付着する部分、筋肉と筋肉が連結する部分、筋腱移行部、また力学的にストレスのかかりやすい場所などです。(単に筋硬結というわけではありません。筋硬結とはトリガーポインの形態のひとつにすぎません。)

最近では、トリガーポイントの多くは重積した(厚くなっている)筋膜にあることがわかってきました。またトリガーポイントは筋膜以外に、腱・靭帯・脂肪などの結合組織(= fascia(ファシア))にも存在します。つまり、トリガーポイントは侵害受容器などの痛みセンサーが高密度に分布しているFascia(ファシア)にトリガーポイントが優位に存在していると考えられています。トリガーポイントが形成される要因は、主に「不動」と「使いすぎ」と考えられています。

その他にも様々な原因があるともいわれていますが、正確にはわかっていません。ただ、加齢によって体全体の水分が減ることで筋膜は癒着しやすくなります。栄養状態や糖質の過剰摂取も筋膜の癒着に関連がある可能性が報告されています。

トリガーポイントは関連痛と呼ばれる痛みをひきおこすことがあります。トリガーポイントは放置すると症状の連鎖を引き起こすことがあります。筋膜の緊張状態が長引いて新しいトリガーポイントが生まれると、症状が複雑化する原因となります。症状の悪化を防ぐためにも、トリガーポイントは早い段階で治療する必要があります。

筋膜性疼痛症候群では、厚くなってすべりが悪くなっている筋膜をはがすための治療を行います。海外の論文にも、生理食塩水で筋肉の痛みが取れたという報告(1980年、Lancet(世界で最も権威ある医学雑誌)の論文)が40年近く前から世に出ています。(論文の主旨としては、生理食塩水での注射の効果を積極的に示したというより、むしろ局所麻酔薬での注射の効果が乏しい(コントロールとして生理食塩水を使用)ことを示す意図で発表されたようです。

トリガーポイントは、腰や背中だけではなく全身に形成されます。そして体のいたるところに痛みを引き起こします。例えば、緊張型頭痛と言われる頭痛は、胸鎖乳突筋と僧帽筋にあるトリガーポイントが原因となります。その他にも、慢性的な痛みがあり大きな病院でいろいろ検査しても原因が分からない場合、実はトリガーポイントが痛みを引き起こしていたということはよくあります。具体的には以下のような例があります。

そして、2014年から2015年にかけて、筋膜以外の靭帯、腱、支帯、腱膜などの結合組織に対しても、生理食塩水によるハイドロリリース(筋膜リリース)が有効なことがわかってきました。

参考図書

アメリカ元大統領のジョン・F・ケネディの主治医であるJanet G Travellと、David G SimonsがMPSの概念を提唱した書籍です。

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