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ファシアとハイドロ その④

fasciaのハイドロリリース(筋膜リリース)とは

トリガーポイントは筋膜上にあることが多く、エコーで見たときに、白く重積しているように見えます。ここに生理食塩水などを注入すると、画面上は白く重責している筋膜がばらばらにほぐれていく現象が確認できます。癒着した筋膜をリリースすることによって、「ピリピリ・ビリビリ」や「痛い」といった感覚異常や、癒着したことによる関節の可動域制限を改善することができます。

治療の広がりは加速度的に進歩しています。筋膜だけでなく、神経周膜や、腕神経叢を包んでいる神経鞘のリリースも効果的なことが分かってきています。今まで神経障害性疼痛と思われていた痛みが、fasciaの異常である場合もあります。また、仙腸関節の中に生理食塩水を注入すると仙腸関節の関連痛と思われている部分の痛みが改善することも分かりました。仙腸関節を構成しているfasciaである靭帯(後仙腸靭帯、骨間靭帯など)にも作用していると考えられます。  以上のように、今まで個々に語られていた関連痛の多くがfasciaの異常によるものと考えることができます。つまり、MPSにおけるトリガーポイントと関連痛、椎間関節症の関連痛、仙腸関節障害の関連痛、さらには、神経障害性疼痛による痛みも神経周膜あるいは神経鞘などのfascia異常と考えることができます。したがって、これらの痛みは、「エコーガイド下ハイドロリリース(筋膜リリース)」で安全に治療できる可能性が出て高くなってきました。

血管周囲のリリース

アンギオソーム(angiosome)とは、体組織がどの源血管によって血液供給されているかを表した血流地図です。もともとは形成外科医の皮弁形成術に用いられていたものになります。

血管の外膜と呼ばれている部分は、コラーゲンやエラスチンを含む線維成分で構成されているため、単なる膜ではなく、周囲組織とのネットワーク機能を有するためのfasciaであると考えられています。よって、血管外膜は発痛源となりうる。

神経だけでなく血管周囲のfasciaに、自由神経終末が豊富に存在し、この部位のリリースは、慢性痛や交感神経に関係する疼痛に効果的である可能性があります。

angiosomeの領域に一致した症状が認められ、担当血管周囲にエコーで重責が認められる場合は発痛源となる可能性があります。

【イラスト】書籍「Fasciaリリースの基本と臨床 ハイドロリリースのすべて」より引用。

(1)甲状腺動脈(以下「動脈」は省略)(2)顔面(3)上顎(4)眼(5)浅側頭(6)後頭(7)深頸(8)頸横(9)胸肩峰(10)肩甲上(11)後上腕回旋(12)肩甲回旋(13)上腕深(14)上腕(15)尺骨(16)橈骨(17)後肋間(18)腰(19)上殿(20)下殿(21)深大腿(22)膝窩(23)腓腹(24)腓骨(25)外側足底(26)前脛骨(27)外側大腿回旋(28)深内転筋(29)内側足底(30)後脛骨(31)浅大腿(32)総大腿(33)深腸骨回旋(34)下腹壁(35)内胸(36)外側胸(37)胸背(38)後骨間(39)前骨間(40)内陰部

アンギオソームを参考に、同定した責任血管周囲のfasciaの重積部(stacking fascia)をリリースします。リリース後に、血流改善に伴う反応を患者が自覚することが多いです。まだ、十分な臨床研究が行われておらず知見は少ないものの、日本国内の学会・研究会を中心に難治性疼痛への治療効果が報告されており、新しい治療部位として注目されています。

末梢神経と同様に、動脈も層構造を有します。具体的には、動脈は3層構造(血管内皮細胞で、内側から、内膜、平滑筋や弾性線維で構成される中膜、膠原線維で構成される外膜)で構成されます。

【イラスト】血管の3層構造。外側から、外膜、中膜、内膜の順。内膜の中を血液成分と血漿が流れます。

末梢神経終末は動脈周囲結合組織から外層に広く分布し、一部は外膜を貫通して、外膜と中膜の間に編目状に広がります。大血管の周囲には交感神経幹(例:内頸動脈:頸部交感神経節)が、未梢血管の周囲にも交感神経が分布しています。動脈の外膜と末梢神経を含む周囲結合組織の境界は連続しており(シームレス)、分離は困難です。

最近、循環器領域において、冠れん縮性狭心症患者の血管外膜に分布する微小血管網(vasa vasorum)、血管周囲脂肪紺織が注目されています。微小血管網の増生(病的状態での微小血管網の詳細な評価はなされていないが)動脈硬化性変化への血管外膜と微小血管網の関与が報告されています。

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